紀州犬のリキが亡くなったとき
母が泣いた。
「自分の母親が亡くなったときでさえ
私は泣くことはなかったのに……。」
そう呟きながら、泣きつづけた。
庭に作った柵で囲った専用スペースに暮らし、
来客があるときには柵越しに寄ってくるリキ。
吠えもせず、
耳も動かさず、
尾も普段のまま。
つぶらな瞳でお客さんをジッと見つめ続ける。
思えば規律を重んじる律儀な性格の犬だったなぁ。
そうそう、まるで武士みたいだった。
「無礼な輩は許しません。」
と、断言しているみたいなフシがあった。
リキはひとつの立派な個人だったのだ。

そんなリキが青年期を過ぎたころ
遅れてウチにやって来たハピ子は、
傍若無人な暴れよう、甘えようだった(今でも?)。
年長者への体当たりはあたりまえ。
飼い主との間に割り込んであたりまえ。
そんなとき、リキは
温かい眼差しで妹を見つめていたなぁ。
妹のハピ子に何をされても許していた。
飼い主と触れ合う時間さえも、妹に与えていた。
兄のリキが我慢しなくてすむように
できるだけ気を配るようにしてたのを思い出す。
なんてイイ男だったんだろう!
貫禄の大人の男じゃないかっ!
犬たちはこの世を去ったあと、
天国で走り回ったり 雲の上で眠ったり。
神様や天使と楽しく暮らしているんだよ。
こんなあったかい絵本を
あの時の母に 渡すことができたら…


