2008年03月28日

『ななつのこ』加納朋子

♪♪♪
桜。
桜の咲き誇る墓地に、あの人は眠っている。


毎月決まった頃にやって来ては
座布団に胡座をかいて昼間から日本酒をグイッ。
あの人がいる部屋は煙草の煙が揺らめいていた。

「MOW、こっちへ来い!」
呼ばれて、親の手前、仕方なく隣りへ正座した。
前歯の欠けてしまった口から出てきた大きな声は
隣りの小学生が理解するには難しかったと思う。

「うちの子になっちゃえよ、MOW。」
分からなかった。
分からないなりに分かりたくなくて、見つめていた。
あのとき考えていたことは今でも覚えている。
「どうして歯がこんなに茶色いんだろう?」
笑い声とともに大きく開いたあの人の口の中を
必死に見つめ続けて、幼い心を遠くへ飛ばした。


第3回鮎川哲也賞受賞作品。


「スイカジュースの涙」
「モヤイの鼠」
「一枚の写真」
「バス・ストップで」
「一万二千年後のヴェガ」
「白いタンポポ」
「ななつのこ」

ななつのこ (創元推理文庫)
ななつのこ (創元推理文庫) ななつのこ


歯が茶色くなった原因は今では知ってしまった。
あのときの疑問は解決したはずなのに、思い出す。


最近になって母の口からその話が出たとき、
あの人のあの発言は本気だったことが判明した。

我が家には他にも兄弟がいたし、
なにしろ忙しい税理士さんだったから、
あの人は他の家庭も会社も回っていたはず。
「それなのに、どうして自分だったのですか?」
聞いてみたいのに、あの人はもういない。


本の中に出てくる、はやて君がうらやましい。
あやめ色のカーディガンを羽織ったあやめさんに
ワタクシも会って相談してみたい。
どんな形でもいいから、答えを見出してほしい。
駒子なら…駒子ならどう思うだろうか。


そうそう。
笑顔と共に母の口からはこんな言葉も飛び出ました。
「あのとき貰われて行ってれば、今頃大金持ちね。」


桜の咲いているあの霊園に、行ってみよう。
実の親の元から離れることは出来なかったけれど
あの人のことが嫌いなわけじゃなかった。
美味しくない巨大なガンモを手にしてやって来る、
あの人の姿が今でも目に焼き付いている。


タグをつけようとして困ってしまいました。
短編だけど短編ではないし、ノスタルジックだけれどリアルでファンタジーではないし、ミステリだけれど…ミステリかな。





posted by MOW at 23:46 | Comment(0) | TrackBack(0) | 読書
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